女教皇の沈黙。彼女は何故TORAを閉じるのか

月読みのタロット

女教皇

彼女の沈黙に出会うたびに、私はそこに誰よりも女性の象徴を感じ、密かに憧れを抱いている。

カトリック教会の方のなかには、この「女教皇」の存在に眉をひそめる方も少なくないという。
女性が司祭以上の職に就くことを認めていないカトリックの世界では、存在しえない「女教皇」はしばしば「反ローマ教皇」の象徴とされるからだ。
そのモデルは伝説上の人物・女教皇ヨハンナをモチーフとすると言われる。

けれども、特に古代エジプト文明の影響を色濃く受けるウエィト版においては、その装いから、彼女のモチーフは「エジプトの女神」であることが伺える。
頭飾りの真ん中の円盤は、夜空の太陽を表し、その両脇は二本の雌牛の角からできている。これは、「古代エジプトの女神ハトル」や「女神イシス」に見られるものと一致する。
ウェイト版以降、白魔術の象徴として「女神イシス」の信望が高まったことからも、彼女は「女神イシス」をモデルとしてるのかもしれない。
いや、きっとそうだろうと、私は思っている。

青い色調は、崇高な人間の精神性と物静かで理性的であろうとする内面を表し、対峙する者に、その沈黙とともに緊張感を与える。
情けや妥協も許されない厳しさもそこに感じ取ってしまう。

が、波打つ装束に、心のやわらかさを、そして足元にある三日月に、女性の持つ特有の不安定さを観ることができる。
そう、月は女性性、感受性、母性、生理をつかさどる星。つまりは女性原理がそこに凝縮されている。

うしろに表されるザクロが描かれた布地。
ザクロは「女性の性器」を象徴し、これほど女性性を神聖視しているカードは他にないと思う。
だからこそ、その沈黙の向こうにある女性としての本能的な直感、鋭い洞察、受けいれる強さが、私に憧れを抱かすのかもしれない。

さて、手元に持つ書物に注目すると、ウェイト版ではそこに「TORA」の文字をみることができる。
これはヘブライ語で「掟」を意味するもので、ユダヤ教の正典「TORA=トーラー」を表している。それは「神の掟、神との約束」をも意味する。
しかし、それは閉じられている。

なぜ彼女はTORAを閉じるのか。

それは「宇宙の真理というものは、人間には容易に理解できない」事を意味する―と、ウィキペキアにはあったが、そうだろうか。

彼女の口からはそれら「神の掟、神との約束」を語る意志はないとも感じられる。
カードの展開においては、「神からの回答をあえては申し上げない」という意志にとれる。しかし、それは拒絶ではない。
「なぜならその答えはすでに質問者の中にあり、人に教えを請うものではない」、と静かに伝えている。
つまり、あなたの中の神に聞け、あなたの潜在意識はその力をもう持っているのだから、という人間の可能性を表しているのじゃないだろうか。
彼女が「女神」であるのであれば、そうした人間の潜在的な可能性に気づきなさいと励ましているように、私には思える。

そう、非常に甘い人間である私は、こう回答する。
拒絶にTORAを閉じるのでなく、気づきのためにあえて閉じたのだと。

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